入管法は誰を守る法律か?


斎藤健

入管法(出入国管理及び難民認定法)の改定/改悪が強行採決された。適用される当事者たちの殆どが反対する中での強行は暴挙と同じだろう。

プーチンのロシアがウクライナに攻め入っている構図と同じ。加害者が被害者のように主張する。難民を加害者扱いする。根底には外国人嫌い。今までの自分(日本ではない)を脅かす。それを保守と勘違いして主張する連中。

入管法は果たして、嫌、一体全体として誰を守る法律かと言う基本的な問題さえクリアできていない。

追求していくと日本の民主主義は誰のものかという問題に突き当たる。

/

不勉強に付き後で読み返せるように取り敢えず東洋経済の投稿コラムを以下転記。訪問者の方は必ず”オリジナルサイト”で閲覧ください。

/

+++

https://toyokeizai.net/articles/-/678707

入管法で露呈、日本の民主主義は死滅状態にある 難民審査も、改正プロセスも不透明すぎないか

レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

著者フォロー

2023/06/10 16:00

入管法に反対する人々

入管法改正案が採択された8日の夜には多くの反対者が国会前に集まっていたが、はたして日本人のどれくらいの人が入管法の改正が行われていることを知っていたのだろうか(写真:共同通信)

6月8日、参議院法務委員会で出入国管理及び難民認定法改正案が採択され、9日の正式採決に向けた準備が整う中、れいわ新選組の山本太郎代表はたった1人で物理的に採決を阻止しようとする必死の行動に出た。この行動は批判を浴び、処分につながるだろう。

しかし、フランスだったらまったく話が違ったはずだ。難民そのものだけでなく、民主主義社会に求められる最低限の良識や透明性をも踏みにじったプロセスに比べれば、山本氏の怒りのデモンストレーションはほぼ罪に値しないからだ。

フランスと日本で大差がある難民受け入れ

この3年間の難民をめぐる議論は、日本がいかに世界からかけ離れているかを示している。2022年まで、日本は1117人の難民を認定し、5049人に人道的地位を与えている。一方、フランスこの間、は55万5665人を保護している。

フランスが2022年の9日間で受け入れた難民の数は、日本が40年間に受け入れた難民の数よりも多い。フランスは2022年に5万6179人、1日あたり154人を難民と認めており、日本が2022年にフランスが受け入れたのと同じ数の難民を受け入れようとする場合、今の日本だと278年かかると言われている。

亡命は少なくともフランスではフランス革命以来の神聖な権利だ。適切な行政機関である「フランス難民及び無国籍保護局(OFPRA)」によって管理され、その亡命に関する決定は専用の司法機関である「行政裁判所・難民専門(CNDA)」によって審査される。2022年、難民認定率は41.3%だった。

→次ページ日常的に不必要な収容が行われている日本

庇護を拒否された人は拘束されることがあるが、それも90日以内である。フランスの主要なNGO5団体の報告書によると、2022年の平均拘留期間は23日だった。亡命を拒否された人の大半は、いずれにせよ国外追放されることはない――これはひょっとしたら制度の欠陥といえるのかもしれない。

一方、日本の難民認定率は最近伸びてきているとはいえ、2%(2022年)と、G7のどの国と比べても極めて低い。人道配慮の数も2022年には飛躍的に伸びたが、そのほとんどがミャンマー出身者で、ミャンマー出身者を除くと、本国情勢で人道配慮を受けたのはわずか30人だ。しかも、日本では庇護を求める人々に対して、日常的に、不必要に収容が行われている。

国際人権法の研究者で阿部浩己明治学院大学教授は、日本の難民政策の基本的な欠陥について、こう指摘する。過剰に官僚化した法務省は、基本的に移民受け入れに反対しており、完全な無責任と不透明さで移民を管理している。その理由は、国境を守る義務と難民申請者の受け入れが矛盾しているからだ、と。

柳瀬氏「日本は難民に対して冷淡ではない」

難民申請が却下された後の不服申立てを担当する難民審査参与員117人(弁護士、ジャーナリスト、裁判官、外交官、その他海外経験者)の1人である柳瀬房子氏は、日本が難民申請者に特に厳しいというイメージを真っ向から否定する。それどころか、日本の難民受け入れ態勢は万全だと強調する。

「日本は難民に決して冷淡ではありません」と同氏は5月上旬に行われた東洋経済の取材にこう語った。柳瀬氏によると、申請手続きは不服申立てまで含めて平均して、最長で4年かかり、その間、申請者は働くことも許されている。現時点では、難民申請者は不認定を受けても何度でも再申請することができ、これにより彼らは強制送還を免れている。

今回の入管改正法のポイントは大きく2つに分かれる。1つは、難民申請の回数を原則2回に制限することによって、申請の繰り返しによる「送還逃れ」を排除すること。もう1つは、退去強制までの間、対象となる外国人を収容する代わりに、「監理人」に監視させる「監理措置制度」を設けることだ。

→次ページ改正入管法に懸念を示す法の専門家たち

1点目については、2021年末時点で、送還に応じない人のうち難民申請をしている1629人が対象となるが、なぜこれほど少ない人数に対して改正が必要なのか、疑問に思わざるを得ない。

一方、2点目については、入管が相当と考えれば監理措置に付されることで収容を免れる。しかし、申請者の知人や家族など監理人は申請者の行動に関し入管庁に報告義務を負い、違反があった場合は最高10万円の過料を科すとしている。

監理人が見つからなければ、収容されるが、弁護士や支援者は、本人との信頼関係が保てないことから監理人にはなれないという人が多い。特に日本に家族や友人がいない人にとっては、今以上に収容から逃れることが難しくなるかもしれないのだ。

法律家「マイナス面が多く、プラス面が少ない」

実際、入管法の改正については、法律の専門家からも反対の声があがっている。『外国人の人権―外国人の直面する困難の解決をめざして』の共著者でもある、弁護士の駒井知会氏は、「この法律はマイナス面が多く、プラス面が少ない。支持できない」と断言。明治学院大学の阿部氏も「手続きを抜本的に見直さないと、難民と認定されるべき人が、ノン・ルフールマン原則に反して、命や自由が脅かされる地域に追いやられる恐れがある」と懸念を示す。

日本は、自国の難民に対する無関心と、海外の難民に対する寛大な政策のバランスを取ろうとしている。つまり、少なくとも難民が自国にいない限り、日本は難民を支援するのだ。この分裂的態度は、緒方貞子氏が国連難民高等弁務官、いわば難民問題における世界のトップであった1991年から2000年の間に明らかになった。

緒方氏が難民救済という目的のために世界で最も重要な仕事をしていたとき、日本は69人、つまり1年に8人以下の難民しか受け入れなかった。「緒方氏は難民受け入れのために何もしなかった」と、当時、国境なき医師団(MSF)の日本代表だったマリーヌ・ビュイソニエル氏は私に語っていた。

2006年、私は緒方氏に直接、この意見に同意するかどうか尋ねる機会があった。「そうは思いません。この点については、かなり努力したつもりです」と、彼女は答えた。

→次ページ1件あたりの審査は5分未満?

柳瀬氏は、日本が難民に対して持っているアンビバレントな立場をよりよく表しているかもしれない。同氏は海外における難民支援を主たる活動とする「難民を助ける会(AAR)」の名誉会長であり、1979年以来、その活動が評価されている。そして、同氏は前述の通り難民参与員を長く務めている。

参議院法務委員会で示されたデータによると、難民審査参与員は100人以上いるのに、2021年に1378件、2022年に1231件、つまり審査全体の20%以上に彼女が関わっている。

仮に柳瀬氏が難民審査参与員の慣例にしたがい、月に2回、4時間ずつ審査していたとすると、2022年に1231件の審査を96時間、1件あたり5分未満で行ったことになる。こんな短時間でそれぞれのケースを把握し、判断することは本当に可能なのだろうか(この点について、柳瀬氏に取材で聞いたところ、同氏は1人ひとり丁寧に審査していると答えた)。

さらに重要なことは、柳瀬氏の発言に関する調査によって、日本の難民審査が、難民申請を却下する参与員に驚くほど偏っていることが明らかになったことである。

柳瀬氏は上記の通り、審査全体の20%以上を扱っているが、難民認定意見を多く出す参与員は配分を減らされたり、一部の参与員にはほとんどケースが配分されていないことが明らかになっている。そしてこのケースの配分は入管庁が一手に握っている。

参与員のインタビューを拒否されていた女性

こうした「偏重」は、難民申請者の生死を分ける結果をもたらしている。1月15日、大阪地方裁判所は、同性愛者であることによる迫害を恐れて母国を脱出した30代のウガンダ人女性を強制送還した日本政府の決定を取り消し、難民としての地位を認めた。この女性は本来受けられるはずの参与員によるインタビューすら拒否されていたのだ。

2019年に入管法改正の議論が出てからというもの、入管当局による残酷な対処を示す証拠が次々と明らかになっている。1つは、名古屋入管の職員の過失で死亡したスリランカ人のウィシュマ・サンダマリ氏の恐ろしい苦悩の映像だ。入管職員が強制送還を拒否するアフリカからの亡命希望者を拷問している映像も出てきた。

→次ページフランスだったらデモで街に人があふれている

民主主義国家であれば、メディアはこのようなビデオへの対応を要求するものである。対応がなされなければ、街は「正義」を求める怒れるデモ隊で埋め尽くされる。アメリカでは、黒人男性のジョージ・フロイド氏が警官の靴の下でゆっくりと死んでいく映像が拡散され、大きな議論を呼んだ。

フランスの場合、2つの政党が健全に政権を争っているため、法改正のプロセスの透明性を高めることができただろう。メディアは独自に調査を行っただろうし、NGOが数十万人を動員し、街頭演説を行ったに違いない。

難民に関するフランスの考え方の最新の例は、セドリック・ヘルー氏である。このフランス人農民は、2016年と2017年にイタリア国境を通過する移民を支援したことで何度も逮捕された。

2018年7月6日、フランス憲法評議会は、フランス憲法の友愛の原則が特に 「人道的な目的のために、国土への存在の合法性にかかわらず、他者を助ける自由を与える」として、同氏の移民を助ける行為を合法とする判決を下した。

日本人はほぼ無関心か静観している

日本は今、難民や移民に対する基本的な権利の欠如で国際的に際立っている。オーバーステイというたった1つの罪で、無期限収容が可能なのだ。こうした収容は10年前に台湾で、数カ月前に韓国で憲法に反すると判断されている。

他方、日本では、外国人の収容について学術的な議論すらほとんどなされていない。人々はこうした状況を自分には関係ないからと無関心か、あるいは静観し、メディアが精力的に報じることもない。テレビでデモの様子が映されることあってまれである。

柳瀬氏は、日本がなぜ難民や移民にこうも閉じてきたかという問いに対して、「欧米諸国は移民の力で経済や社会を発展させてきたが、日本は移民の力を必要とせずここまでやってきた」との考えを示した。が、人口が急激に減っている日本がそんなことを言っていられる立場にあるのだろうか。

残念ながら入管法改正のプロセスは、民主主義の国際的基準からいかに後れているかを如実に示しただけだった。

+++

/

/

【関連】

/

過去 30 日間

過去 1 年間

人気の投稿