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https://toyokeizai.net/articles/-/616241
フランス「40年前の統一教会事件」が社会を変えた
日本とは大違い「カルト規制」の厳しい中身
レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員
2022/09/06 11:00
フランスにはカルトの定義はないが、カルト的な行為を取り締まる規制がある(写真:Cyril Marcilhacy/Bloomberg)
フランス人のクリスチャン・グラベル氏は、最近の日本での旧統一協会(世界平和統一家庭連合)に関する話を聞いた時、40年前にフランスで起きた事件を思い出した。「カルトの危険性がフランス国民に初めて広く知れ渡ったのは、統一教会がきっかけだった」(グラベル氏)からだ。
グラベル氏はフランス警察庁で、官僚60人からなる「犯罪・過激化・セクト的逸脱行為の防止に関する省庁間委員会(CIPDR)」を率いている。同氏はまた、カルト的逸脱行為を担当する内部部局である「カルト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部(MIVILUDES)」のトップでもある。つまり、この問題に関してはフランス政府内の最重要人物だ。
フランス人が釘付けになった「事件」
1982年3月、フランス国民はクレール・シャトーというフランス人女性の報道に釘付けとなった。当時21歳で熱心な統一教会信者だったシャトーさんが、彼女を脱会させようと必死に試みていた(彼女の両親と兄弟を含む)7人によって誘拐されたのだ。
シャトーさんは自由意思を持っていることが示されたため、フランスの裁判所は彼女を解放し、彼女を誘拐した家族らを罪に問わざるを得なかった。解放されたシャトーさんは統一教会に復帰し、(当初は両親含む)誘拐者たちを訴えた。裁判により彼女は被害者となったので、誘拐は統一教会信者のイメージにとって「すばらしい機会」となったとさえ主張したのだ。
この事件は世間を二分した。シャトーさんの信じたいものを信じる権利を擁護する者もいれば、娘の精神状態を心配する両親を擁護する者もいた。事件を担当した裁判官でさえ世論に引き裂かれたように見えた。
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「検察官は、警察があまりにも早くシャトーさんを解放したことを残念に思っていたようである一方、『われわれは個人の自由、思想の自由、あらゆる哲学を信奉する自由などの原則を守らなければならない。例えそれが(統一教会創始者)文鮮明氏の哲学でも』と述べた」と、ル・モンド紙の記事は伝えている。
当時、「メディアの注意を統一教会に向けたかった」と彼女を誘拐した者たちは語った。安倍晋三元首相を殺害した山上徹也容疑者の供述と不気味なほど似ている。そして当時も、その意図は完全に成功したのだった。
カルトがもたらす社会悪が認識された
2カ月後、シャトー事件の担当判事は標的を切り替え、突如としてフランス国内の統一教会の事務所21カ所を一斉に強制捜査し始めた。これにはフランス警察の犯罪部門、経済部門、労働部門、金融部門がかかわった。
信者60人が取り調べを受け、その後解放された。2年後、統一教会のフランス事務所のトップが脱税で起訴された。同事務所は確定申告をしていなかったが、新聞販売で商業収入を得ていたのだ。
フランス国民にとって、シャトー事件は統一教会事件となった。さらに重要なことに、フランスのメディアが「プチ・ジュージュ(petit juge)」という親しみを込めて呼ぶ裁判官(その判断が全国的影響を与える地方裁判官)により、捜査が一気に拡大し、カルトがもたらす社会悪がフランス国民の間に知れ渡ったのである。このことは政界に電気ショックを与え、その影響は今日まで続いている。
フランスの制度は過去40年間、個人の自由を尊重しつつ、カルトによる犯罪行為や反社会的行為を防止・処罰しようと試みてきた。1995年には、国会委員会が173のカルトを掲載したリストを公表したが、これは後に差別的だとして廃止された。
「カルトが信者を勧誘するのは自由だ。エイリアンが世界を支配するという話を信じたければ信じても構わない。しかし、カルトはその行動によって社会悪や個人への損害を生み出すべきではない。だから今のフランスはマインドコントロールを罰することに集中している」(グラベル氏)
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各カルトに関しては、MIVILUDESが調査したうえでその危険性を評価している。それは、「精神の不安定化」「法外な金銭的要求」「従来の環境からの断絶」「身体的完全性に対する攻撃」「子供の勧誘」「反社会的言説」「公序良俗の撹乱」「重大な法的紛争」「通常の経済回路からの逸脱」「公権力への侵入の企て」という10の項目を基準に行われている。
「カルトはどこから問題となり始めるのか?これは非常にデリケートな問いだ」とグラベル氏は言う。MIVILUDESは、教授や警官、およびカルトの標的になり得る人々と接するすべての人に対する教育も行っている。
カルトの定義はないが、行為を取り締まる
カルトの信者に関しては、2001年に成立した「反セクト(カルト)法」で、カルトによる行為の犠牲者を支援するために「無知・脆弱性不法利用罪」という犯罪が創設された。この法律は、例えば、金銭の巻き上げや性的搾取など、脆弱状態にある人々を食い物にしようとするカルトに制裁を科すための基礎となった。
現況、フランスにはカルトの定義はなく、その代わりにセクト的逸脱行為を取り締まる方針をとっている。カルト的な行動の10の兆候のうちの1つ、またはいくつかがMIVILUDESに申し立てられると、MIVILUDESは、その申立人を社会的・法的サービスに導かれるよう支援する。
MIVILUDESが犯罪につながるようなカルト的な虐待などの行為を発見した場合、警察に事件を付託することができる。MIVILUDESはまた、税務署に悪質なカルトを監査するよう提案することができる。
フランスの行政は、親がカルトに入信した子どもを保護することにも努めている。両親が一緒に子育てをしている家庭には、裁判所はほとんど介入しないが、両親のどちらかが、自分の子どもがカルトのターゲットになることを心配している場合は、介入することがある。その際、子どもが隔離されていないか、体罰を受けていないかなどをチェックする。
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「現在、セクト的逸脱行為対策に関してはフランス政府のソニア・バックス国務長官が直接責任を負っている。この点ではフランスは非常にユニークだ」とグラベル氏。MIVILUDESは官僚12人で構成される小さな部署だが、フランス政府内のすべてのカルト的虐待関連部署の重要な結節点となっている。
「通常は犠牲者の親族から相談を受ける。彼らを受け入れ、事件が解決するまで行政・司法および身体・心理のレベルで支援している」とグラベル氏は語る。
カルトは非常にセンシティブで複雑な問題なので、MIVILUDESは複数の省庁と連携して取り組んでいる。「財務省、教育省、社会問題省、司法省、警察庁などと協力している」(グラベル氏)。MIVILUDESは2017年には約2000件の案件を担当したいたが、2020年は約3000件、2021年は約4000件と徐々に増えている。
裁判所も対策を強化している
フランスの裁判所も対策を強化している。フランス最高裁判所は昨年9月、原告の意識が完全でない限り、法的措置の期間制限は進行しないという判決を下した。つまり、マインドコントロールの犠牲者は、カルトに入会した時期にかかわらず、マインドコントロールが解けた日以降に裁判を起こすことができるようになった。
例えば、法的措置の期間制限が20年だとして、カルトに20年以上入会し、金銭などの損害が20年以上前に発生していた場合も、再び自由になった日からそのカルトを相手に訴訟を起こすことが可能だ。
2年間におよぶコロナ禍によって、カルトによるマインドコントロールとのMIVILUDESの闘いは一層急を要するものとなっていると、グラベル氏は警告する。
「危機の時代には、叩き上げのカルト信者が提示する解決策はシンプルどころか奇跡的にさえ見える。彼らは社会のあらゆるレベルから信者を勧誘する。至るところで、時には国際的な規模で」。現在の統一教会に関しては、フランス国内では恐らく信奉者は非常に少ないだろうと、グラベル氏は信じている。
ちなみに、筆者がグラベル氏に初めて電話をした際、彼は私に日本語で「はじめまして」と言った。聞くと、彼の祖先には日本人がいるという。いま日本に必要なのは間違いなく、彼のような存在だろう。
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